円高介入の考察

JPMの見立てです。

 介入の効果に関する当社の見方は変更は無い。すなわち、介入がUSD/JPYのトレンドに持続的な影響を及ぼす可能性は低いとみている。先週までのUSD/JPYの下落は、株価の堅調地合を背景とした「ドル安」主導の動きであり、こうした世界の投資家のリスクテイク嗜好の改善に基づいた「株高・ドル安」の流れが継続するのであれば、USD/JPYは早晩下落基調に戻り、介入前の水準に回帰する可能性が高いと考えられる。USD/JPYは、昨年9月の介入では介入の翌日、今年8月の介入では介入当日にピークをつけてその後は反落に転じているが、今回も同様の展開となる可能性が高いとみる。
 もし株価下落が今後も続くようであれば、USDもJPYも買われる結果、USD/JPYの下値は限定的となり、戦後最安値更新のリスクは一旦後退するであろう。このケースでは、USD/JPYがレンジ取引となる一方で、クロス円での比較的急速な円高が進行する事になる。
 介入に関する問題は、まさにこの点にある。USD/JPYは確かに円高方向にかなりオーバーシュートしていると考えられる。我々の試算でもUSD/JPY相場の均衡レートは95円程度と推計できる。USD/JPYの下振れは『円高』というより『ドル安』が原因となっており、ドルの実質実効レートは1970年以降の最低レベルとなっている。従って、USDのエクスポージャーが大きい輸出企業にとっては介入後の現状レベルでさえ、収益的にはかなり厳しい状況である事に変わりは無い。
しかし、これまでも指摘してきている通り、日本経済全体にとって重要なのはもはやUSD/JPYでは無くなっている。今や製造業の収益でさえUSD/JPYよりもクロス円との相関が強くなっている。
 クロス円の中でも最も重要な通貨ペアの一つは、韓国ウォン(KRW)/円相場である。日本の製造業の多くは韓国ウォン安・円高に悩まされてきたが、9月に生じた急激なKRW安を受けて、10月19日に財務省は日韓通貨スワップの拡充を発表した。これは、これまでKRW安を志向していた韓国政府がKRW安の急激な進行に懸念を持ち始めた所に、日本がある意味で間接的な『KRW買い介入』の可能性を示唆した事を意味し、日本経済に実質的に好影響を与え得る絶妙な策だったとも捉えられる。これにより、日本政府は今後KRWが上昇基調に戻った時、韓国政府に対してKRW安政策を取らないように説得する事ができる立場になる可能性もあり、日本経済にとって非常に重要なステップであったと考える。しかし、昨日の介入で事情が変わってしまった事は残念である。日本は、今後の日本経済にとって重要な韓国や中国に対して為替相場の操作を行わないように要請する事はできなくなってしまった可能性がある。
 また、もう一つの論点は、日本の介入は政府が国債を発行し(発行するのは短期国債であるが、償還できず借り換えを繰り返さざるを得ないので長期債のようなものである)、政府債務を増加させる事によって行われているという点である。昨日の介入がどの程度の規模であったかどうかは、本日夕方に日銀が発表する計数で大まかな規模は判明するが、その分日本の財政赤字が拡大し、その赤字増加分で日本は現在世界で最も弱い米ドルを購入し続けているのである。